ぐっすり眠れる魔法のヨガ絵本『おやすみヨガ』いとうさゆりさんインタビュー

《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2018.02.08

ぐっすり眠れる魔法のヨガ絵本『おやすみヨガ』いとうさゆりさんインタビュー

全米ベストセラー・ヨガ絵本が日本初上陸! まだ日本ではヨガをテーマにした絵本は少ないですが、この絵本は「ぐっすり眠れる魔法の絵本」として、アメリカをはじめ現在世界11ヶ国でヒットしています。
登場するヨガポーズは、はじめてヨガに触れる子どもたちにも挑戦しやすいものばかり。おやすみ前に読めば、ページをめくるたびに身体がほぐれて、呼吸が深まっていき、いつの間にか、すやすや……。毎晩「早く寝なさい!」と声を上げている、なんておうちの方に、オススメの一冊なんです。
この絵本の翻訳をしたのは、いとうさゆりさん。長く海外で生活されているいとうさんは、ご自身もヨガをライフスタイルに取り入れている一人です。原書“Good Night Yoga”との出会いや、絵本のみどころはもちろん、ヨガが子どもたちにあたえる効果や、海外、日本での広がりなど、キッズヨガについてもお話しいただきました!

おやすみヨガ
おやすみヨガの試し読みができます!
作:マリアム・ゲイツ
絵:サラ・ジェーン・ヒンダー
訳:いとう さゆり
出版社:バベルプレス

大人も子どもも、ヨガのポーズとゆったりした深い呼吸を繰り返すことで、 自然と身体の緊張がゆるみ、心に余裕が生まれます。 ヨガの後は、ベッドやマットに寝そべりながら、パパやママの声で 雲に乗って空の旅をする簡単瞑想法で、さらに深~くリラックスしてみて下さい。 また、保育園などのお昼寝前に、おやすみヨガをするのもおススメです。 一日の終わりに、その日の嫌なこと、困ったことは、ぜーんぶ捨てて 感謝の心と優しい気持ちで終える、こんな新習慣を身につけて、 気持ちよく、眠りにつきましょう。

絵本に出てくるヨガのポーズは、11種類。
詩のようなことばと美しいイラストで、夜のイメージが広がり、ゆったりと心を穏やかにしてくれます。

空にのぼった「みかづき」になったり……


身体を左右に曲げる「みかづき」のポーズ

はっぱのうえで羽を休ませる「てんとうむし」になったり……

イラストと説明を見ながら、親子でヨガのポーズを取ることができるのです。


両手を合わせ、足を広げておしりを深く下ろす「てんとうむし」のポーズ

●アメリカで発売後、瞬く間にベストセラーとなりました。

───『おやすみヨガ』は、とても実践的なヨガの絵本ですね。原書はアメリカで大ヒットしている作品と伺いました。

はい。原書“Good Night Yoga”は、当初、自費出版する予定だったそうですが、アメリカ大手のマルチメディア出版社、サウンズ・トゥルー社の目に留まり、出版されたのだそうです。発売後、ADHD(注意欠陥多動性障害)に効果のある絵本として紹介され、瞬く間にベストセラーとなりました。一日を元気に前向きな気持ちでスタートできる、続編 ”Good Morning Yoga”も話題となり、両作品はアニメ化されDVDも発売されています。2018年4月には、パートナーヨガの楽しさを描いた”Yoga Friends”が出版される予定です。


翻訳をされた、いとうさゆりさん

───アメリカはヨガ先進国と言われていますが、それだけ多くの人がこの絵本を手にしているのですね。 作者のマリアム・ゲイツさんは、どのような方なのでしょうか。

マリアムさんは、ハーバード大学出身、長く小学校教師をしていましたが、ヨガへの情熱から、教師を一時辞めて、夫とともにヨガスタジオを開きました。
小学校で体育の一環としてヨガの指導を依頼されたことをきっかけに、子どもたちにヨガを教えるようになりました。ヨガや呼吸法、ポジティブな感情や思考に導けるヨガの教えを子どもたちに指導することとなって、「自分がやりたかったのはこれだ」と直感したそうです。
マリアムさんは、子どものためのヨガ指導マニュアルが一般的でなかった時代に、ヨガの教えを子どもたちに分かりやすいようにまとめ、指導者を養成するためのプログラムを考案するなど、キッズヨガ普及のために中核的な役割を果たしたと言われています。

───絵本も、キッズヨガの普及活動のなかで作られたのでしょうか。

絵本“Good Night Yoga”は、長年ヨガを教えていくうちに生み出された一連のヨガの流れを、子どもたちが学校以外でも練習できるように、そしてもっとたくさんの子どもたちに同様の練習が出来るようにとの思いから誕生しました。ですが、マリアムさんの想いを形にするまでの道のりは困難で、着想から出版にこぎ着けるまで10年の歳月がかかったそうです。

───10年! 長い時間をかけて作られたのですね。

マリアムさんの表現したい世界観を表すイラストレーターを見つけるまでに、苦労されたそうです。そして、ついに、サラ・ジェーン・ヒンダーさんの描く絵に出会いました。女の子が木のポーズをとり、枝に見立てた髪の毛が広がり、その周りに森の動物や昆虫が集まっている表紙のイラストを見たとき、最高の絵本が出来上がると感じたそうです。

───かわいらしさと、幻想的な雰囲気もあって、見ていてリラックスできる絵ですね。ヨガのポーズがとてもわかりやすく描かれているのも印象的でした。

サラさんは、“Good Night Yoga”をきっかけに、ヨガ講師の資格を取得し、絵本のイラストだけでなく、子どものためにヨガを教えはじめたそうです。つい最近、自身で文章とイラストの両方を手掛けた幼児向けのヨガ絵本”Yoga Bug”を出版したそうですよ。

●ストレスと付き合うスキルを身につけていれば、たくましく生きていけると思うんです。

───いとうさんは現在カナダにお住まいだそうですが、キッズヨガはいとうさんにとって身近なものだったのでしょうか?

私自身、長年ヨガをやっているのですが、カナダに住みはじめた頃、キッズヨガに興味を抱いたイベントがありました。カナダのウィニペグで、ヨガフェスティバルに参加して、数日間にわたり、いろいろな種類のヨガや瞑想、ヨガニードラ※のクラスを体験したんです。その中に、キッズヨガのクラスがあって、二人の息子と参加しました。

※ヨガニードラ…休息の姿勢をとりながら行うヨガ・瞑想。


息子さんと参加されたヨガフェスティバルでの写真を見せていただきました。

───屋外でのヨガは、とても気持ちが良さそうですね。

だだっ広いカナダの平原に寝そべり、深呼吸を繰り返すと、自然と心も体も開放的になって、今まで味わったことがないほど、深くリラックスするのを感じました。頬に風を受け、鳥の鳴き声を耳にしながら、空を見上げるって本当に気持ちがいいんです! 忙しい毎日の生活の中で、めったにやらないことですよね。
普段些細な事でケンカする息子たちが、この時はきちんと先生の指示に従い、お互いの額と胸に手を当てて目を瞑っていたのですが、その姿がとっても神々しく見えて。相手の温かさや鼓動を感じることって、意識して確認することはないですが、何かとても大切なことを教えてくれていると感じました。これがキッズヨガとの最初の出会いです。

───キッズヨガに、より深く関心を持ったのはどうしてですか?

たまたま立ち寄った本屋さんに、キッズヨガ専門のコーナーを発見したことがきっかけです。驚きました。ヨガ絵本がズラッと並んでいて、ヨガDVDや指導者向けのマニュアルカードなどがあり、カナダはキッズヨガが社会に浸透しているんだと実感しました。それから、いろいろなヨガやマインドフルネス※の絵本を読んで、いつか翻訳できたらなと思うようになりました。

※マインドフルネス…今、ここで起きていることに注意を向け、評価や判断を下さずに物事をあるがままに受け入れる状態。欧米では、ストレスに対処する心のエクササイズとして医療・教育等の現場で実践されている。


カナダの書店で並んでいるヨガの絵本

───そのなかで、翻訳することになる“Good Night Yoga”とも出会ったのですか?

“Good Night Yoga”も本屋さんで目にしたことのあった絵本でしたが、実ははじめはあまり翻訳したいと意識していなかったんです。でも、以前翻訳した『こえだのとうさん』の出版社バベルプレスで、“Good Night Yoga”の翻訳オーディションがあると知り、それをきっかけに、最後まで読んでみました。それから、ぜひ日本でこの絵本を紹介したいと思うようになりました。

───どんなところに魅力を感じたのでしょうか。

呼吸やヨガの動きだけでなく、安眠を誘うような瞑想(ねたまんまヨガ)の部分があることに、価値を感じました。今まで読んだヨガ絵本は、子どもたちがイメージしやすいように動物を真似たポーズが載っているものが多かったのですが、瞑想の仕方が載っているのは画期的だなと。特に、私の長男は、なかなか眠りにつけない子どもだったので、役立つのではないかと思ったのもあります。実際、絵本の読み聞かせをしながら、息子たちと体を動かしてみると、たった5分程度でとても落ち着いた雰囲気になったんです。

───お子さんに読み聞かせをして、たしかな効果を感じられたのですね。

本格的に翻訳に取り組むことが決まり、キッズヨガのことをもっと知りたくなって、息子の小学校へヨガのクラスを見学に行きました。実は、子どもたちが転校した小学校で、ヨガの授業があったんです。ヨガの授業は、学年別クラス毎に週1回45分行われています。ちなみに、この学校には、小学1年生から中学2年生までの生徒が通っていて、言語も宗教も肌の色も全く異なる生徒たちが集まっています。初めて授業の見学に行ったとき、こんな素晴らしい授業があるんだと涙が出るほど感動しました。

───それは、どんな授業だったのでしょうか?

まず、ヨガの教室に入ると、生徒たちはヨガマットの上で5分から10分、先生の誘導を聞きながら、呼吸に意識を向けて仰向けまたは横向きに寝るところから始まります。スローなリラックス音楽を流し、先生が「吐く息、吸う息に集中してね。だんだんと呼吸をゆっくりにしていくわよ」と優しく生徒に話しはじめると、少しざわついていた教室が静寂に包まれていきます。


小学校3年生のヨガのクラス

5分程度瞑想した後に、絵本やストーリーに合わせて、ヨガのポーズをしたり、ペアでヨガをしたり、体幹を鍛えるヨガをしたり、上級生と下級生が混合で一緒にヨガをしたりします。
学年や生徒たちのその日のストレスレベルに合わせて、内容を変えるそうですが、小学校低学年には「静」と「動」のメリハリがある楽しいクラス展開をしています。中学生ともなれば、大人と変わらないプレッシャーやストレス、体の凝りを抱えていますよね。なので、気持ちを落ち着かせ、体の強張りをなくすようヨガの動きや瞑想の時間を多くしています。


中学校2年生のヨガのクラス

授業の最後は、新しいポーズに挑戦した自分を褒め、ペアヨガの相手に感謝し、リラックスする時間を持てたことに感謝の気持ちを捧げることで終わります。

───身体を動かすことと同時に、リラックスして、しっかり心と向き合う時間があるのですね。

そうなんです。「今、ここにいる間は、授業やテストや抱えているストレスは一旦横に置いて、余計な思考を止めて、自分を労わる時間よ」という先生の言葉を聞いて、生徒たちがほっと安らげる時間と空間の大切さを感じました。心を休ませることで、気持ちの余裕と活力が生まれるんですよね。自分に優しくすること、ありのままの自分を認めること、そんなメッセージを送ってくれる授業って、素晴らしいと感じました。

───週に1回でもそういう時間を持つことで、心の状態が違いそうです。

ヨガのクラスの後は、みんなの表情が穏やかなんです。次の授業にも、ヨガの効果が続くのか、子どもたちがとても集中しているそうです。一流のスポーツ選手やビジネスマンが生活にヨガを取り入れているのには訳があるんだなと納得しました。
こんな風に実際に、ヨガの授業を見学したり、生徒たちと一緒にヨガをしてみて、子どもたちにとってもヨガは必要不可欠なのだと分かりました。ヨガは大人だけのものではないんですよね。小さいときから、自分の感情やストレスと付き合う知識とスキルを身につけていれば、強くたくましく生きていけるはずだと思うんです。だからこそ、日本でもキッズヨガの輪が広がったらいいな、そういう思いを込めて、絵本の翻訳に取り掛かりました。

───翻訳の作業で、大変だったことはありますか?

原書では、ヨガの動きの部分が少し曖昧で、耳で聞いただけではポーズをとれないところもあったのですが、私は目に障害のある方にも、楽しんでいただきたいと思ったので、必要な言葉を補いました。
詩の部分で、原書ではひとつの文章が6ページにわたり続いており、どうすべきか非常に迷いました。今でもベターな訳はなかったのか、考えたりします。本当に果てしない作業です。

───ヨガの動きを説明する文章も、心がゆったりするような優しいことばが使われていますね。

自分のつけた訳で、実際にヨガの動きが出来るか確認しながら、何度も改訳し、ヨガの先生にも意見を伺いました。最後に役立ったのは、寝る前の子どもたちに読み聞かせをしたことでした。自分一人で翻訳しているときは、「自分が心地よい感覚になるか」を意識していたのですが、子どもを前にしたら、子どもに対する愛情や優しさみたいなものが足りていなかったことに気づき、一気に訳を変更しました。もしかすると、その辺りが、おっしゃっていただいたような優しい表現に繋がったのかもしれません。
翻訳版を作り終えて、息子たちに読み聞かせをしながら、ヨガをしたとき、下の息子が「ねたまんまヨガ」の姿勢のまま、すやすやと寝息を立てていたので、とても嬉しくなりました。

───「ねたまんまヨガ」は、ヨガにはじめて触れる人でも、気軽に挑戦できそうです。

このページでは、雲に乗って空を旅することをイメージすることで、読者を眠りに誘います。
「ねたまんまヨガ」は、当時なかなか眠りにつけなかった作者・マリアムさんの長女のために、考案したものなんです。日中忙しく活動していて、夜になってなかなか寝るモードに入れないというお子さんは結構いらっしゃると思いますが、この瞑想ガイドがとても効果があったという声をよく聞きますね。

●『おやすみヨガ』は、眠る前の心と体の準備体操

───『おやすみヨガ』の出版後、どのような反響が届いていますか?

出版記念の読み聞かせのイベントを各所で行いましたが、「ヨガの効果を知っているけれど、我が子にどう教えたら良いか分からない」というヨガ好きのお母さんたちからは、「自分では伝えきれないメッセージの詰まったこの絵本に出会えて、感動した」との声をいただきました。ヨガ未経験者の方からも、この絵本をきっかけに、「ヨガが少し身近になった」とか「ヨガに挑戦してみたい」と言う声も届いています。
また、普段、日常生活の中で、呼吸を意識して生活することはないので、『おやすみヨガ』で、呼吸を繰り返すことで、読み聞かせをする親自身が癒されたとのメールもいただきました。


日本での出版記念イベントの様子

───絵本が、ヨガの普及のツールにもなっているのですね。

『おやすみヨガ』を出版して、キッズヨガ普及のために熱心に活動されている方々にもお会いすることができました。
日本で10年ぐらい前から、著者のマリアムさんのように、キッズヨガのマニュアルを作ったり、ヨガの指導者を養成したり、子どもたちにヨガを教えてきた日本キッズヨガ協会のミナクシみよこ先生からは、「こういう絵本が欲しかったんです。日本キッズヨガ協会推薦書として紹介したい!」とのコメントをいただきました。ミナクシさんによれば、日本では、草の根運動を通して、キッズヨガがやっと認知されるようになってきた段階だそうですが、日本の子どもたちにもヨガの授業が必要と日々実感されているそうです。
また、日本で初めてのヨガ絵本『森のくるるん』(そうえん社)の作者・近藤麻智子さんと、一緒に活動をしているヨガインストラクターの近藤唯さんにお会いすることもできました。お二人から、ヨガも絵本も、大人のもの、子どものものという区分けをすることなく、広がって欲しいというお話を伺い、その通りだなと共感しました。
その他にも、日本ヨガメディカル協会代表理事の岡部朋子さんをはじめとするたくさんのヨガの先生から、ヨガの授業のツールとして活用したいとの声をいただいています。

───これから日本のキッズヨガ普及の場で、『おやすみヨガ』が大活躍しそうですね。

『おやすみヨガ』を通して、日本でもキッズヨガに注目し、関心を持ってもらえると嬉しいです。
現役の先生方も、実際にヨガを体験していただいて、その心地良さをまずは体感していただきたいなと思います。
日本の小学校・中学校・高校でもヨガが必修科目として導入されるよう、私自身も、これからキッズヨガ普及のために貢献していきたいと思っています。

───最後に、絵本ナビユーザーへ向けて、メッセージをお願いします。

私自身も『おやすみヨガ』をきっかけに、ヨガの時間を作って寝ることが日課になったのですが、二人の子どもたちに「早く寝なさい!」と声を上げることがなくなりました。作者マリアムさんが教えてくれた「一日、どんな感情を味わって、どんな経験をしたとしても、眠る前には全てを手放す」この習慣を続けているお陰で、私自身がもっと育児に自信とゆとりを持てるようになってきています。そのせいか、よくかんしゃくを起こしていた下の子どもに対してもより大きな寛容に対処できるようになり、結果的に、子どもとより良い関係性が生まれています。

ヨガとか瞑想とかというと、近づきにくいとか、スピリチュアル的とか、敷居が高い感じがしてしまうのですが、『おやすみヨガ』は、眠る前の心と体の準備体操みたいなものだと思って気軽にやっていただければと思います。
おやすみ前はもちろんのこと、日中少しリラックスしたいなというとき、お昼寝をする前にもおススメの絵本です。また、幼稚園や保育所でのお昼寝タイムにもピッタリです。

───ありがとうございました!

いとうさんは、『おやすみヨガ』をきっかけに、アメリカで考案されたキッズヨガプログラムYogaKidsの指導者養成講座に参加し、 現在カナダの小学校で、ヨガのボランティア授業をされているそうです。 キッズヨガに関する情報を発信するHappy Kids Yogaウェブサイト https://happykidsyogajp.com/も立ち上げられたそうなので、キッズヨガに興味を持たれた方は、ぜひチェックしてみてくださいね!

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